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デストラップにはめられた話②(ネタバレあり)

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デストラップにはめられた話①(ネタバレあり) - 飛んでけすなぎも


舞台デストラップ7月8日(土)昼公演の感想を綴るブログの続きです。



第1幕で恩師シドニーと結託し、シドニーの妻であるマイラに心臓の発作を起こさせ、殺す事に成功したクリフォード。


マイラが居なくなった後は、シドニーの自宅で劇作家兼秘書として、作品を作りながら働き始めます。

第2幕からは、重々しい大きめのニットを脱ぎ、デニムの裾もブーツにinして衣装に変化が見られました。シドニーとクリフォードの会話も、まるで対等な同僚の様に終始タメ口で和やかに進んでいきます。



デスクにてタイプライターでひたすら作品を打ち込んでいくクリフォード。大型犬とファンによく例えられる橋本くんが、大きな体で少し背を丸めながらぺちぺち、ガッチャンとタイプライターを打ち込み続ける様子は正直めちゃくちゃに可愛いです。

本当に、橋本くんがデスクワークするお仕事に就かなくてよかった。通りすがりのOLに頭から食われる。



しかしアイデアが溢れて、タイプライターを打つ手が止まらないクリフォードと反して、相変わらずシドニーはスランプのまま。何も浮かんできません。

ずっと椅子でクルクルと回ってみたり、足をどーんと伸ばしてみたりする様子は、こちらも負けずに大きなワンコの様でした。


さすがにクリフォードの目にも余るようで「もしかして、何もしてない…?」と聞かれますが、苦し紛れに「考えているんだ!」と反論します。




その最中、シドニーの友人である弁護士ポーターが訪ねてきます。シドニーが売りたいと言っていた土地の取引について、話をしに来たのでした。

この坂田聡さんが演じるポーターも、この物語にとってかかせない、コミカルで深みのあるスパイスなんです。


あまりにも早すぎるクリフォードのタイピングに「あいつ本当に打ってる!?」と突っ込んでみたり(最初は両手で打っている→だんだん早くなる→最終的に人差し指でぺぺぺぺぺぺ!!と連打するだけになり客席も大笑い)、家を出ていくクリフォードの挨拶が爽やかすぎると突っかかってみたり、10分超えたら相談料を貰うと言った途端に、シドニーに凄い剣幕で家の外に出されそうになってみたりと「ああ、福田さんの作品に必ず出てくるキャラクターだな」と思いました。



アドリブが多いのか、思わず一緒にやっている演者も押され気味になるのが見ていてとても面白かったです。



ポーターは、家を出る際に誤ってドアノブではなく上の鍵穴の凸を掴んでしまったクリフォードを一瞬たりとも見逃さず「おい若手!!見逃さなかったぞ!!」と呼び止めます。


更にクリフォードはシドニーにおつかいを頼まれて家を出ていくのですが、お使いの内容が「夕飯のサラダの材料」と「乳酸菌が入っていないヨーグルト」なのに対し、クリフォードは食い気味で嬉しそうに「はい!!」と笑顔で答えます。「乳酸菌は必ず入ってるよ!?」「そんな爽やかに、乳酸菌入ってないヨーグルトに食い気味に返事する人いる!?」というポーターの度重なる突っ込みにとうとうムスッとして無言になるクリフォード。

福田さんは演出に普段の演者の姿やクセを入れてくださるのですが、これがまさにいつもの恥ずかしさからムスッとしている橋本くんそのものでした。

ポーターは「えっ、もしかして怒らせた?怒ってるの…?」とアワアワしていましたが、それがまさに小学生が好きな子をからかいすぎて怒らせてしまったような慌てっぷりで、緊迫していた会場中が笑い声に包まれ、とてもほっこりするシーンでした。









爽やかにクリフォードが買出しに出かけると、シドニーとポーターだけの会話が始まります。



ここで、2人だけの間でクリフォードの話が出るのですが、シドニー「どうやらあいつ、ゲイみたいなんだ」とポーターに言うのです。

シドニーもポーターも「仕事に個人の性的嗜好は関係ない」といった結論に落ち着くのですが、今回結末までこの物語を追うと、クリフォードが恩師のシドニーに抱いている感情は性愛だけでは表せないのではないかな、と私は思いました。


クリフォードは、シドニーを尊敬していて、存在に感謝していて、それでいてどこか独占欲というか、占有したいし思うように動いてほしい、支配したいという思いがうっすらと見える部分も感じられました。存在自体を崇めながら、大事に大事に隅から隅まで愛するようなその気持ちは、決して「性愛」という括りだけでは言い表せないのではないかと思います。


私は気が付けばもう10年近く、地方でアイドルのヲタクをやっています。

こうして今回の観劇の様にチケットを取り、交通手段を手配し、当日は目いっぱいお洒落をして、スケジュール帳には次はどこで〇〇くんを見ようと書き込んだり、こうして作品を受け取った感想を文章として書き留めたりしています。

多分周りのヲタク仲間もそうだと思うのですが、ヲタクをしていて1度は必ず言われたり耳にするセリフが「どんなに好きでもアイドル本人と付き合えるわけでもないのに…」という趣旨の言葉じゃないかなと思います。

実際私も非ヲタの人間やこうして日常的に何かを鑑賞することをしない人間からこの様な言葉を投げられることがあります。



ですが、単にアイドルヲタクといえどその嗜み方や好きの形は千差万別なのです。

中には本当にお付き合いしたいと願って努力を続ける「本気愛型」や、数多くのデータを収集し自己で集計しナマモノであるアイドルを調べ尽くす「分析型」、賛否両論はありますが、アイドルの容姿やクセを面白くイジって笑わせる「貶し愛型」も居るし、あの子はご飯ちゃんと食べてるかしら…眠れてるかしらと心配しいつも寛大な心で温かく見守る「母親型」なんていうのも居ます。

本当に、好きの度合いや応援の仕方、掛け持ちの有無や同担との付き合い方まで分別していったら、途方に暮れる種類になってしまうのではないでしょうか。


1度ヲタクの海にドボン、と飛び込んだらそういう情報量の水圧を一身に受けるんですよね。


ですが、海には飛び込まずにずっと水槽を眺めるだけの人も世の中には存在するわけで。

それが、どれ位の割合なのかわからないけど、そういう傍から物事を眺める人にはどうしても水槽の中の魚の名前が欲しいんですよね。

自分で理解するにしろ、誰かに説明するにしろ、我々ヲタクが推しに抱いている感情をまず単調にカテゴライズして、噛み砕いてみないとその魚をもし食べるって事になった場合、調理方法もわからないじゃないですか。


だから今回、シドニーがポーターに言った「どうやらあいつ、ゲイみたいなんだ」という言葉は、あくまでシドニーなりのカテゴライズ、そしてクリフォードなりの自分の言葉で言い表せない気持ちのカテゴライズが具現化したものなのではないかなと解釈しました。






弁護士のポーターは、本当にカンが鋭く頭が良く回ります。

出かけ際にクリフォードが、鍵のついた引き出しに原稿を閉まった事に気づいて、去り際にシドニーに伝えます。


しかしこのポーター、なかなか去らない。




ここからが坂田聡さんの本領発揮という所なのでしょうか、玄関のドアを開けたはいいものの「これで出番が終わりなんだ、もう少し居させてくれ」と舞台の設定を無視して懇願し、部屋に戻ります。


従来壁がある設定でここまでやってきたのに、決まりを無視してセットの壁(という設定)の隙間から帰ろうとしてみたり、セットと演技の都合上で下手側にポーターの顔が見えなかったので見せたいと舞台の端までニコニコしながら顔見せに行ってみたり、挙句は「芝居の邪魔しないからここに居ていいでしょ!」とソファーの裏にしゃがみ込んだりと、コミカルに延々と行われるアドリブの嵐に客席は笑い声と拍手の嵐、対峙するシドニーをかなり困らせていました。


苦し紛れに「だ、誰に向かって話してるんだ…!」「いいから早く帰れよもう!」と困った様子で笑いを堪えながら言うシドニー役の愛之助さん、焦った様子がなかなか見れないので可愛らしく感じました。




シドニーは強制的にポーターを玄関に立たせ、役に戻って必死に別れの決定打となるセリフを話し送り出します。
(※ポーターはあーあ、決まりのセリフ言いやがって!と不服そうでしたが。)



そして、壁にかけてあるナイフや部屋の中にある鍵を使って、クリフォードが使っている引き出しの鍵を何とか開けようと細工します。

引き出しの下に潜り込み、両手を突っ込むと、指が挟まって抜けなくなってしまうのですがちょうどそのタイミングでクリフォードが帰宅してしまうんですね。



「にっ…298、299、500!!!」と腕を曲げ伸ばししながら誤魔化すシドニーに「僕より計算できない…」と呆れ顔のクリフォード。

なんとか難を逃れ、クリフォードが目を離した隙に引き出しのロックを解除してシドニーは中にあった原稿を手に入れるのでした。







第2幕、この時点でまだ序盤なんですよね。幕間が終わって、再び緞帳があがってからここまで、細かな演出やコミカル要素がたくさん入ってきて「サスペンス・コメディ」がいよいよてんこ盛りになってきたなあと思いました。

でも、舞台「デストラップ」にはまだまだ続きがあるんですね。



長くなってきたので続きはまた後ほど、更新させてもらいます。ここまで読んでくださって、ありがとうございます。