デストラップにはめられた話③(ネタバレあり)
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デストラップにはめられた話②(ネタバレあり) - 飛んでけすなぎも
舞台デストラップ7月8日(土)昼公演の感想を綴るブログの続きです。
鍵のついた引き出しから、クリフォードが隠していた原稿を手に入れたシドニー。
新しい作品をタイプライターでクリフォードが打ち込んでいるその横で堂々とグラスを片手にソファーに座りながら読み始めるのです。
そこには、登場人物の名前は違えど私たち観客が先ほど1幕で観たデストラップと全く同じストーリーが書かれていました。
家の中の家具の種類や配置、壁にかけられた手錠やナイフなどの小道具についても隅々まで設定が書かれています。皮肉にもシドニーが講義で「細かいメモやプロットを最初に書け」と言った通り忠実に。
原稿を声に出して読みながら、シドニーは激昂します。まるで犯罪を自ら自白しているようなものだ、これが世に出たら言い逃れができない、どうするつもりだとクリフォードを責め立てます。
クリフォードは、若さゆえかどこか楽観的で「記者に質問されたらノーコメントと言う」「あの時観客であるマイラは本当に心から騙されたのでこの話は成功している」「この作品は主人公が劇作家じゃないとトリックが成立しない」と声を荒らげて言い返します。
彼はデストラップという作品を本当に大事にしていたんだなと思います。
初めて書き上げた大作が、尊敬しているシドニーに評価されて、あろう事か実際の殺人に使われてなおかつ成功し、こうして2人で働くきっかけともなったのですから。
クリフォードにとってデストラップは大事な人に捧げる愛情表現でもあったのではないでしょうか。
押し問答の末、シドニーがデストラップという作品を認め、クリフォードの才能も嫉妬しつつ認めます。
夜が近づくにつれて、シドニーの自宅近くに嵐が近づいてきます。窓の外からは風と雨の音がしてきました。
そこに、占い師のヘルガが停電時に使うロウソクを2本借りるためにやってきます。そこで初めて、ブーツを履いたクリフォードとヘルガが顔を合わせるんですよね。
「ブーツを履いた男がシドニーを襲う」と予言していたヘルガ。あわや一触即発かと思いきや、ここでも佐藤仁美さんの可愛らしいコミカルなスパイスが活かされます。
「ああ〜〜〜!!おまえ〜〜〜!!!!」「私の事、裏で若い頃は可愛かったって言ってただろ!?聞いたぞ!?」
「今でも可愛いわ!コンチクショウめ!!!」
片言の日本語でプンスカ怒りながらクリフォード演じる橋本くんに詰め寄る佐藤さん…と、一瞬何を言われているのかわからなかったのかキョトンとして受け答えをする橋本くん。2人の対比が可笑しくて、客席からくすくす笑う声が漏れていました。
ああ、橋本くんめちゃくちゃ可愛がられてるやんけ〜!!
クリフォードが席を外したあと、こっそりとヘルガはシドニーに「あの男、今夜中にでも追い出した方がいい、本当に」と深刻そうな表情で告げます。
そしてそこでシドニーは「ああ…近いうちにクビにしようと思ってたんだ」と不敵に笑みを浮かべながら言うのです。そう、さっきデストラップを認めたのは本心ではなく全くの嘘なんですね。
愛之助さん演じるシドニーは、物語全編を通してステージの上にずっと居るのですが、飄々と嘘をつくというか、まるでその時は心から本心のように表情を纏ってコチラに語りかけてくるのに、次のシーンではころっとそれを翻すことをする印象がありました。
落ち着いてスマートに、当たり前の様に相手を欺く。魅力的な悪い男ですね。
観客も本当なのか、嘘なのか、見ていても読み切れないぐらいさらっと欺くので本当に「さっき右って言ったのにええ、左に行くの!?!?」って感じでめちゃくちゃこのイイ男に転がされます。
ヘルガが帰った後、壁から外した劇の小道具で使われたピストルを手元にそっと置くシドニー。
クリフォードを呼び出して、新しい作品の場当たりを実際にやろうと誘います。実際に動いてみて可能なら作品にも真実味が増すからです。
登場人物は片手の使えない者と自由に両手が使える者。
弱者である片手の使えない者が、自分よりも自由に動ける者を力づくでも意図した所に移動させて、殺せるかという実証でした。
まずは「シドニー=片手」と「クリフォード=両手」に役を設定し、場当たりをします。
お芝居ながら、本当にこのシーンの二人の動きは激しいです。髪を振り乱しながら相手をソファーに押し付けたり、本棚にぶつけたり、必死の表情で息を荒らげながら成人男性がぶつかり合うんですよね。ッフゥ〜〜〜!!!!眼福〜〜〜!!!!背負い投げ〜〜〜〜!!!!!
結果は、片手よりも有利なクリフォードが簡単に背後を取られて負けてしまいました。シドニーが壁にかけてあるナイフに手をかけて「もっと本気で当たってこい、こんな簡単じゃ検証にならない」と言うのですが、この時点でだいぶ2人とも息が上がっています。
ハアハアしながらクリフォードが「ごめん、ケガをさせてしまいそうで」「君のことを引っ掻いた…」とどこまでもシドニーの事を気遣うんですけど、この台詞回しで疲れたOLの白米が何故か715倍は美味しくなりますありがとう。
続いて、両者の役を入れ替えて「クリフォード=片手」と「シドニー=両手」の役として再び場当たりをします。
「本気でぶつかってこい」とシドニーに言われるとしっかり片手を固定して、相手にぶつかっていくクリフォード。先程よりもさらに激しく両者はぶつかり合って、もみくちゃになりながら激しくぶつかり合います。
しばらくやりあった後に「別のシーンも検証しよう」とシドニーは言い、武器や場面を変えて二人の検証は続きます。
クリフォードに斧を持たせて、シドニーを襲わせる場当たりをしていた時でした。
先程準備していた銃をシドニーはクリフォードに向けます。
この時の両者の表情キングオブ最高!!!(語彙力)
「お遊びはここまでだ」と急に冷たく言い放つシドニーに、「え…?」と最初は何が起こったかわからず固まるクリフォード。
銃には早朝に実弾を込めておいたこと、ここでクリフォードを撃っても、警察を呼んで「斧で襲いかかられた」と正当防衛を主張することなどを淡々と伝えます。
クリフォードは、尊敬し愛する恩師に裏切られて命をも奪われるその寸前、跪いたまま絶望した表情を浮かべます。
乱れた髪と、汗ばんだ額に、悔しさや悲しさからいまにも零れそうな涙目になって鼻の周りがほんのり赤くなった表情が本当に本当に、絶望的な瞬間なのに美しかった。
特にその涙が光るのを見た時に「橋本くん、こういう場合のお芝居で泣く人なんだ…」と私の頭には浮かんできました。
泣き顔と大きな身振りで号泣してるように見せる舞台もあるし、泣くことも演出の意向なのかもと思いますが、本当にその瞬間彼は「クリフォード・アンダーソン」として感情を抱えて、そこに存在していたんですよね。
こんなに絶望的な状況を切り取っているのにその姿は美しくて、いつもどこかふんわりして、甘えたな表情ばかりの同い年の男の子が、心の引き出しにこんなに豊かな表現を持っていたんだと気づいた時、心を撃ち抜かれました。
クリフォードへ、捨て台詞のような別れの言葉を呟いて冷酷にシドニーは引き金をひきました。
大きな発砲音も大嵐の中に紛れて周りには聞こえなかったのでしょう。バタン、とクリフォードが地面に倒れます。
全てが終わったと不敵な笑みを浮かべるシドニー。デストラップの原稿の始末や、警察の手配をしようとしたその時でした。
「アッハッハッハッハ!!!!」
高笑いをしながら、クリフォードが起き上がります。
シドニーが使った銃の実弾はすり替えられていたのでした。
これがクリフォードの、デストラップ!!!!
そして、シドニーに今度こそ実弾の入った銃を向けながら、壁にかけてあった手錠を嵌めるように命令するんですね。
全ジャニヲタに言いたいのですが「自担×拳銃」って最高じゃないですか? それと「自担×手錠」っていうのも最高じゃないですか?
クリフォード、それどっちもやりま〜〜〜す!!!!
片手に手錠、片手に拳銃を構えながら「自分でつけろ」と手錠を付けさせるんですね、尊敬して、愛している恩師にやらせるんです。しかも冷酷な顔で相手を睨みながら。
お母さーーーん!!白米が美味しいよーーーー!!!
悔しさをにじませながら手錠を片手にはめるシドニー。もう片方の手錠は椅子に固定されて、身動きが取れなくなります。
その姿をみて嘲笑いながら貶すクリフォード。大好きな相手を縛り付けて、動けなくして、今やその相手の命さえも自分の手中にあるその状況に喜んでいるようにすら見えました。
シドニーは全く身動きが取れません。
クリフォードは原稿を奪還し、2階へ一旦上がっていきました。
悔しそうにため息を吐くシドニー。
そして、気だるそうに手錠を引くと、あっさりと外れます。
1幕で引っ張ると外れる言うとったのは、本当なんか〜〜〜い!!!!
舞台「デストラップ」の何が良いかって、物語中の小さな出来事もしっかり伏線として存在していて、めちゃくちゃ綺麗に回収されるんですよ。
そことそこ、繋がってた〜!!みたいなのが随所にあってハッと気づく頃には我々観客も罠にはまってるんですよね。
何気ない事が2重3重のトリックのタネになっていて、めちゃくちゃ面白い。
手錠を外したシドニーは、壁にかけてあるボウガンを手に取ります。
そこに、1階へと降りてきてしまうクリフォード。
恩師を尊敬し、愛し、またその恩師に魅了されつくしてしまった青年は、呆気なくその矢を受けて倒れるのでした。
矢が刺さったまま、ふらふらと階段を降りてきて、そのままソファーの背もたれに突っ伏してしまうクリフォード。
この時の橋本くんも、本当に微動だにしません。
この時の体制、Twitterで「干したお布団」と言われているのを目にしたのですがそれ位すっごくピッタリ背もたれに沿ってお腹を折る形で倒れ込むんですよね。
あんなに激しく動いた後でかなり苦しい格好のまま、一切体が動かず、息を全くしていないかのような姿で居られる橋本くん。
今すぐえらいプロデューサーは死体役をこの子にください。
遂にクリフォードの息の根を止められたシドニーは、急いで警察へ連絡をします。
「秘書に斧で襲われて、思わずボウガンで売ってしまった、夢ではない本当だ!」「頼む、早く来てくれ…!」
本当に言う通り、一緒に働いていた秘書を殺してしまったように自責の念を滲ませながら連絡するその姿は、嵐で停電した真っ暗な部屋のように暗い闇で満たされているのかもしれません。
その、最中でした。
むくり、と静かに起き上がるクリフォード。
先程空弾で撃たれた時の様に高笑いするでもなく、怒りに震えて叫ぶでもなく、静かに静かにシドニーの背後に歩み寄ります。
暗闇ですらっとした彼の姿がすーっと移動するんです。ゾッとして一気に血の気が引きました。
雷鳴が響くその部屋の中で、シドニーに打ち込まれたボウガンの矢を己の体から引き抜いてメッタ刺しにします。
叫び声をあげながら逃げ惑うシドニーを何度も、何度も、刺す場所も選ばずに執拗に刺し続けるクリフォード。
本当に、全編通して一番このシーンが恐ろしくて息ができませんでした。
雷がけたたましく光り、雷鳴が轟く部屋の中でついに息絶えるシドニー。
そして、その姿を見届けたクリフォードも、ついに倒れて息絶えるのでした。
本当に、本当に壮絶なラストでした。アイドルの現場に行っているはずなのに目の前で起こっている凄惨な場面に息をするのも忘れてただ身を寄せて固まったのはデストラップが初めてです。
劇中クリフォードは「第1幕はうまく書けたんだ、問題は第2幕さ」「第1幕で盛り上がった分、第2幕で盛り上がりにかけたらよくない」という趣旨の言葉をクリフォードに話していました。
クリフォード、あんた第2幕も大成功だよ……
この後、コミカルなポーターとヘルガが再び舞台に現れて「ここで超能力で読み取った事実を劇作品にしたらもうけられるのではないか」「超能力で読み取ったのは私だ、報酬は8:2で私が貰う」「8:2では納得いかない」「お前、シドニーに土地を売る時わざと安く言って利益を中抜きしようとしただろう」とワチャワチャ言い争いをして、この舞台は幕を閉じます。
「どんなにいい人に見えても欲はあって、裏の顔もある」「欲に支配された時、人間は傍から見たら理解ができない狂人になってしまう」と最後に理解できるのかなと思いました。
この舞台を見るにあたって、テーマが「サスペンスコメディ」で演出があの福田さんと言う事だったので、まさかこんなにゾッとして背中が冷たくなるような思いを劇場でするなんて思いもしませんでした。見終わったあとは本当に体感気温が3℃ぐらい下がります。
このまさかの裏切りも、もしかしたら福田さんが仕掛けた「デストラップ」なのかも知れませんね。
今回、大好きな橋本良亮くんがこんなにハードな「クリフォード・アンダーソン」をやった事、本当にすごい事だしカッコイイなと改めて思いました。
普段はほんわかとして、口下手で、何か考えてもうまく表現出来ずに燻ったり、実直すぎて周りに勘違いされ易い彼がこんなに複雑な気持ちを持った青年を演じているだなんて、こんな一面を持っていたなんて、ますます彼に魅せられました。
素人が何を言ってるんだと自分でも思いますが、演技って例えば泣くお芝居があるとして、その人の心の引き出しに「泣く!」っていう小物入れが無いとどっか上手くできないんじゃないかなって思うんです。
人間だから、いくらでもなこうと思えば泣けるけど、その小物入れを開いてキラキラしたビーズをみつめないと、本当に見ている人も泣いちゃうような胸を打つ仕事にはならないって私は思ってて。
今回橋本くんのクリフォードを見て、橋本君の中に確かにこのクリフォードを構成するきらきらしたビーズが入った小物入れがあって、それがちゃんと引き出しの中にあるんだなあって思いました。
何を言ってるのか、わかりにくいかも知れませんが。
そんな彼の一面を舞台を通して知ることが出来て、ますます大好きになりました。
橋本くん、すごいよ!とってもかっこよくて、とにかく凄かったんだよ!橋本くんの仕事はこんなにも、人の心を震わせてるよ!
正直こんなに観劇後のブログが長くなる作品ってなかなか無くて、本当に良いものを今回見れたんだなって幸せに思います。
まだまだ、舞台デストラップは公演期間中です。この素晴らしい舞台が一人でも多くの人の心を震わせますように。
無事に、千秋楽を迎えられるよう心より祈って。
※ストーリーを追いつつ感想を書いてきましたが若干の前後や、より詳しいシーン説明に関して物足りなさがあるかもしれません。ご了承ください!